倉敷美観地区、倉敷川畔に白壁の街並みが美しい場所から一本入った本町通りで、「町家喫茶 三宅商店」を始めて20年(5歳)。

2004年、閏年に誕生した三宅商店は、4年に一度誕生日を迎えます。季節や地域に寄り添い、試行錯誤ゆっくりじっくり歩みたいと2月29日に開業。当時36歳の店主も56歳に。今まで文章にはしてなかったのですが、改めて三宅商店を始めるきっかけを20年の節目に少し。

大学進学から地元を離れ県外生活をしていると、「倉敷いいとこですよね、昔、一回行ったことあります」「広島へ行く途中に半日寄りました」等の会話をよく交わしました。大原美術館やアイビースクエアの話くらいまで行くと、その後の会話が続かない。倉敷を知ってくれてるのは、嬉しいけれどいつもモヤモヤがありました。

私が高校時代、寄り道をして見つけた本町通りや路地、暮らしや仕事の音やにおい、自転車屋のおっちゃんや祝儀店のおばちゃんのことは残念ながら知らていない。

私は身長181センチで、小さい頃から背が高いねと言われてきました。見た目はそうだが、こんな性格であんなことが好きで、などいろいろあるのだけれど、背が高いだけと言われているようで、倉敷の話となんだか似ている。

町家の軒先が連なる本町通りを歩くだけで、人懐っこさを感じる。裏通りと言われていたが、暮らしや仕事が現役の本町通りを伝えたい。

そんな想いで「町家喫茶 三宅商店」を2004年2月29日からスタート。本町通りに、目掛けて行きたくなるような茶店があれば、本町通りに足を運ぶきっかけになるかと。

本町通りを伝えたくて始めた「町家喫茶 三宅商店」ですが、料理やスウィーツ作りが好き、人に喜んでもらう接客が好き、そんなカフェを将来やりたいといったスタッフが20年に渡って、三宅商店を作って来ました。

20年の間に三宅商店、本町通りに足を運んで下さった皆さんありがとうございました。
地域と季節に寄り添ったメニューと、町家の空間でまたお待ちしています!

2024年2月29日
三宅商店 店主 辻 信行

日用雑貨 荒物屋「三宅商店」の屋号を継承

戦前から日用雑貨・荒物を扱う三宅商店は、地域の商店。今でいうホームセンターで、その時代の暮らしに寄り添った店の屋号。

町家としては、母家と蔵を構え、江戸から明治期のもの。古民家の再生、利活用だけでなく、本町通りで商いをしてきた三宅商店の記憶も残したいと、町家をお借りし屋号もそのまま継承させてもらいました。

約2年の準備・改修工事を経て2004年2月29日に「町家喫茶 三宅商店」として開業しました。

「もったいない」と向き合ったカフェメニュー

三宅商店では、地域の果物農家さんのもったいないを全量買い取る取り組みを20年間継続しています。一軒の桃農家さんから始まり、今では30軒以上になりました。出荷出来ない規格外の果物の全量買い取りは、カフェメニューにするには多すぎますが、それはこちらの都合。規格外の果物を全部引き受け、三宅商店の軒先で白桃やピオーネ、いちじく等を農家さんからのお裾分け価格で販売もして来ました。

今は更に酒津の旧原田邸、三宅商店カフェ工房でジャムやドライフルーツに加工し、地域素材を活かしたものづくりにして全国へ発送しています。

三宅商店のカフェメニューは、季節のメニューが中心です。地域かつ季節のものを手作り。季節のパフェのコンポートやアイス、フルーツソースも自家製。農家さんのもったいないとスタッフが向き合い、メニューを作って来ました。

朝がゆの店としてスタート

ここで20年間続くメニューをご紹介。2004年2月29日、朝の日の出時刻6時35分オープン。倉敷美観地区の朝、普段着の朝を体感して欲しいと営業時間は朝の日の出時刻から。三宅商店は、朝がゆの店としてスタートしました。

パン屋さんの焼き上がりを目掛けるように、玄米がゆの炊き上がりる時間を目掛けて三宅商店に足を運ぶと、もれなく美観地区、本町通り、町家の空間の朝を体感出来ます。そこには観光地としての店も開いておらず、日中の賑わいもありませんが、地元暮らし目線の普段着の倉敷があります。

散歩している人、街を掃除している人、挨拶を交わす声、お寺の鐘の音、酒蔵から立ち上る酒米を蒸す蒸気、通勤、通学の自転車。三宅商店のどの席からも、普段着の本町通りの朝を体感出来ます。今は毎週日曜日の朝8時半、朝がゆが炊き上がります。

町家の空間

倉敷美観地区は、伝統的建造物群保存地区であり外観は街並みとして守られています。逆に言うと外観は規制があるが、店内は自由に改修が出来てしまいます。そのため本来の町家の空間が、失われていました。外観も本物、町家の空間も本物にしたいと、三宅商店の改修計画を立てました。

三宅商店の改修時には、昭和や平成時代に増築・改築された所を整理し、江戸から明治期のオリジナルの町家の空間に戻す工事を行いました。

商いの店の間と暮らしの居間、日が差し込み風が抜ける縁側、蔵へ繋がる通り土間に井戸。本来の町家の空間を伝えたい、体感して欲しいと、もとの町家の空間に戻して行きました。

店内に貼られた昭和36年の時刻表やポスターは、古いものを持って来たわけでなく、当時のまま。日用品を並べて商いしていた棚もそのまま。

かつて日用品としてカモ井加工紙のハエ取り紙も売っていたこの棚は、2007年11月1日、全国に先駆け「mt」マスキングテープ明るい10色、渋い10色が並び最初に販売されました。

町家喫茶としてスタートしたての頃、女子大生グループの方と店内で会話しました。「なんかほっこりする」「癒される」と。「おじいちゃんおばあちゃん家もこんな感じ?」と訪ねると、「マンション暮らし」だと。

環境や経験は無くても、日本人には脈々と感性や感じる心が宿り続けていると、うれしく確信した瞬間でした。

ほんのりとした風を感じる町家の空間で、地域と季節に寄り添ったカフェメニュー。場が持つ力と、受けとめ体感する側との出逢いが、豊かさの本質を取り戻すきっかけに。

世代や時代の瞬間的価値観に翻弄されず、誰もが持っている大切なものを取り戻すきっかけづくりを「へいのない学校」と称して20代から仕事しています。三宅商店もそのひとつです。

20年を迎えた「町家喫茶 三宅商店」、これからも皆さまにとって日々の暮らしがちょっと楽しみになるような出逢いとなれば!

倉敷 辻 信行

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